現在のプロジェクト
ポストコロナの教育格差研究:世界的課題の解明とオンラインでの調査・実験手法の革新 R3年度-R7年度
科学研究費助成事業基盤研究(S)21H04982の採択に基づき、令和3年度より5年間の予定で実施しています。
新型コロナウィルスパンデミックは、日本を含む国際社会を大混乱に陥れた。多くの経済活動や社会活動が縮小もしくは中止に追い込まれたが、長期的な影響が懸念されるのが、学校の閉鎖や学習や活動の変化を通じた次世代への影響だ。昨年3月からの臨時休校と緊急事態宣言により、すべての学校は一定期間閉鎖され、子供をとりまく環境は一変した。第一に、一定期間、学校教育は家庭に頼らざるを得なくなった。第二に、子供の活動が大きく変化した。第三に、家庭の情報収集活動がインターネットやSNSにシフトした。第四に、学校外教育もオンラインに大きく変化し、家庭の情報環境が学校外活動へのアクセスをも左右することになった。私たちはこれまで、独自に開発した日本子どもパネル調査(JCPS)を使い、子供の成長や学力の変化を分析し、政策効果の検証や家庭の経済格差と子供の教育格差の連関の国際比較、さらに子供を対象としたラボ経済実験も開拓してきた。しかし今後は、社会のオンライン化による格差拡大の解明と解決に重点を移す必要がある。研究手法の革新も必要だ。コロナ禍では大学でのラボ実験は困難となった。オンラインで経済実験も存在したが、子供に対して統制されたリモート実験環境を用意することには困難が多い。しかし、コロナにより多くの子供がオンライン環境に親しむこととなった状況を踏まえれば、オンラインでの調査・実験の方法論的革新を進める契機ともいえる。そこで本研究では、統一的に構築された子供の全国サンプルを複数用意し、伝統的アプローチを見直し、親子を対象とした調査や実験研究をオンラインで実施する手法を新たに開発する。それを通じ、コロナ禍が子供の学力、非認知能力、行動等に与えた因果的影響を、国際比較を通じて検証、ポストコロナの教育格差に関わる世界共通の課題の解決の糸口を探る。
研究紹介動画
経済格差と教育格差の長期的因果関係の解明:親子の追跡データによる分析と国際比較 H28年度-R2年度(R3年度まで延長を認められました)
科学研究費助成事業基盤研究(S)16H06323の採択に基づき、平成28年度より5年間の予定で実施しています。
多くの先進国で経済格差の拡大と世代間の経済格差の固定化を懸念する声が高まっている。ピケティ(2014)らによる実証研究は、米国を始めとする多くの先進諸国で、資産や所得の不平等が拡大していることを明らかにした。結果としての不平等のみならず、機会の不平等も深刻な問題である。日本においても、子どもの貧困の撲滅と世代間の貧困の固定化の解消は、次世代に希望を与えるための最重要課題であろう。 機会の不平等解消のために有効な教育政策は何か、人的資本投資により成人期の所得や社会的格差がどの程度解消されるのか、分野を越えた国際比較研究が進んでいるが、我が国においては、同じ子どものライフコースを就学前から長期にわたり追跡し、親世代の経済状況・学力・非認知能力、成人期における就業・所得などアウトカムを全て備えたデータが存在しなかった。そのため、長期的視野で教育政策を評価した研究も、そのようなデータ基盤に基づいた国際比較研究への参加も困難であった。 本プロジェクトでは、親子を追跡した調査と経済実験を施行し、子どもの養育環境・親の養育行動・教育政策と教育格差発生との長期的因果関連を解明する。特に、従来、研究代表者を中心に実施してきた「日本子どもパネル調査(Japan Child Panel Survey: JCPS)」の対象年齢を幼児期と青年期に拡張し、学力データの質を向上させ、家庭の経済格差がライフコースを通じて学力、非認知能力、行動に与える因果的影響を分析する。さらに、同一の親子を対象とした経済実験を長期間実施し、家庭における子どもの非認知能力形成メカニズムを解明する。以上の研究を基に、経済格差と教育格差の関係、教育政策の有効性について、国際比較を行う。
研究紹介動画
こどもの発達過程における教育達成の不平等の変動:6ヵ国の比較研究 H30年度-R3年度
欧州との社会科学分野における国際共同研究プログラム(ORA)の採択に基づき、日本側チームの代表として、平成30年度より3年間の予定で実施しています。
本研究課題の目的は、親の社会経済的地位(SES)がこどもの発達と教育達成に与える影響の生成過程の科学的理解と、その結果生じる世代間の社会経済的格差の連鎖を断ち切るための社会福祉政策・教育施策の効果の評価を、日欧米の長期追跡データや大規模データを用いた国際比較を通じて行うことである。比較対象となる国は、フランス、ドイツ、日本、オランダ、英国、米国の6 カ国であり、共通のフレームワークは、各国における3 歳から16 歳までの長期追跡データと行政業務データ(administrative data)への「Data Harmonization=データの調和」技術の開発と適用である。それにより、教育上の不平等がこどもの発達とともにどのように進展するか、親や家庭のどのような部分の不平等が影響を与えるのか、また各国の政策が不平等の拡大をどの程度抑制するのか、という問題の研究が「調和の取れたデータ」により可能になる。そのようなデータ基盤に基づき、1)幼児期および義務教育初期における不平等度と、育児/家庭環境や幼児教育/保育施設の役割に関する新しいエビデンスの発見、2)初等教育期におけるこどもの不平等の進展の各国間の比較と、親子の関わり、学校と親の関わりなどが、不平等を減らす役割を持つかどうかの検討、3) 中学校入学時の不平等とその後の進展の比較と、学校のタイプやトラッキング(教育課程の分化)がそれらに与える影響、について分析を行う。これらのすべての分析で、こどもの能力や性格の観測できない異質性を考慮し、同時に、平均的効果のみならず、異なる分位点における影響の異質性に配慮を行う。
日本子どもパネル調査
日本子どもパネル調査では、慶應義塾大学パネルデータ設計・解析センターが実施する日本家計パネ調査(JHPS)、慶應家計パネル調査(KHPS)において、子どもの学習状況や発達状況について2年おきに調査を行っています。私は子ども調査の設計を担当するグループを統括しています。詳細は、下記のサイトをご覧ください。
終了したプロジェクト
初等中等教育での教育投資や学力が若年期の学習意欲・就業・所得に与える影響の実証研究
課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業(実社会対応プログラム)の採択に基づき、平成25年度より3年間の予定で実施しました。主に10代後半から20代に渡る年齢層に対し、学習意欲・就業・所得を調査し、小中学生時代における教育投資や学力・性格、高等学校での教育課程が若年期の就業・所得等に与える影響、教育投資意欲格差が発生する背景等を中心に研究を行いました。
教育経済学における実験的手法の適用に関する研究
科学技術研究費基盤研究(B)一般 24330090 の採択に基づき、平成24年度より3年間の予定で実施しました。近年国際的に急速に普及している実験的な手法による教育経済学・政策研究を推進するためのプロジェクトです。
ミクロ計量経済学的手法による教育政策評価の研究
科学技術研究費基盤研究(A)一般 20243020 の採択に基づき、平成20年度より4年間の予定で実施しました。学校・個人のミクロデータに基づく教育研究の基礎を確立するための研究を、わが国におけるこの分野の専門家を分担研究者として迎え、研究を推進しました。